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『黒祠の島』小野不由美 [読書]


黒祠の島 (新潮文庫)

黒祠の島 (新潮文庫)

  • 作者: 小野 不由美
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/06/28
  • メディア: 文庫

探偵事務所の式部は、失踪した作家・葛木志保を探すため”邪教”が伝わる島に赴く。だが住民たちは余所者を嫌い式部の調査を妨害する。そしてついに、神域で磔にされた女の死体が発見されてしまう。

俗世間から隔てた島に根付く慣習や思想は受け入れがたい異質さがあり、理解を超える部分が恐怖心をより増幅させた一冊。暑い時にはホラー色濃いものが読みたくて手に取ったけれど、十分背筋が凍る物語でした。ひとの信仰が式部や私のような「余所者」を惑い慄かせ、最後まで振り回されていました。読み終えた今も、何かが残っている感覚が抜けない…。

彼と彼女の禅問答のような掛け合いが好きです。その場を含めて。現実的ではない側面、これ以上にない真実の場でもあって、痺れた。島のそこここで埋め尽くされる風車と風鈴の描写だけでも、うすら寒い気分に襲われて(そして展開がどんどん、夜にはあまり読めない作品でした。


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『ジヴェルニーの食卓』原田マハ [読書]

ジヴェルニーの食卓

ジヴェルニーの食卓

  • 作者: 原田 マハ
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2013/03/26
  • メディア: 単行本

マティス、ドガ、セザンヌ、モネ―名を馳せる画家の人生と関わりを持った女性たちは語る。助手、ライバル、画材屋の娘、義理の娘―彼女らが目にした光景とは。

これは…これは! なんてものに出会ってしまったんだよ。静かに殴られたような感覚が、後からじわじわやってくる。表紙に惹かれて手に取ったので、あらすじを知らないまま読み始めたのだけど、あまりに自分好みすぎてよろける…。

巨匠たちと関わりを持った女性たちが語り部となり彼女たちの目を通して見る画家たちの姿、そして絵画の数々を見ていく。著者が美術関係の仕事をされてたこともあり、絵画の描写が綿密でかつ受け手に分かりやすく活き活き描かれている。文字からみずみずしい豊かな情景が広がっていく感覚に茫然としてしまった。凄い。

特に「美しい墓」「ジヴェルニーの食卓」には!鳥肌が立つ。画家と彼女たちが紡ぐ温かく切ない物語が、美しい舞台と絵画でより独特の世界を見ているような。一人の老婦人が語りだす、かつての少女がひと夏に経験したある画家との邂逅。マグノリアの花に込められた物語。何度読み返してもため息をついてしまう。

こんなにも満たされて、いつまでも浸っていたい時間にめぐりあえて幸せ―。

この世に生きとし生けるもの。命あふれるものたちに恋をして。
悲しみは描かない。苦しみも、恐れも。重苦しい人間関係も。
きなくさい戦争も、ただれた社会も。
そんなものは、何ひとつだって。
ただ、生きる喜びだけを描き続けたい。 


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『カブキブ! 1』榎田ユウリ [読書]

カブキブ!  1 (角川文庫)

カブキブ! 1 (角川文庫)

  • 作者: 榎田 ユウリ
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/08/24
  • メディア: 文庫

歌舞伎大好きな来栖黒悟は部活で歌舞伎をやろうと立ち上がる。親友のトンボの協力のもと部員メンバー集めに奔走するが…。シリーズ第一巻。

面白かったー! 歌舞伎を立ち上げるために黒悟(クロ)が口説く候補者はクセがある面子ばかり。いっそ愚直なまでに体当たりで誘うクロの姿は、時に鬱陶しさがあるも歌舞伎への情熱が本物であることと彼の本気具合を直に触れたことで、こちらまで熱くなってきた。

クロの勧誘で徐々にメンバーが集まるなか歌舞伎役者の愛人の子と噂される阿久津や梨園の御曹司蛯原が、今後どう関わってくるのか気になるところ。阿久津には色々謎があり、カブキ部に加入するのかしないのか今巻では決着がついてないし。本物の歌舞伎の世界に身を置く蛯原から見たクロたちの行動は鼻につくものらしいけれど、彼自身クロたちとの関わりで何かが変わりそうな気配もありそうなので。 

歌舞伎といえば、三浦しをんさんのエッセイで今まで硬かったイメージが大分ほぐれたけれど、さらに今回、主人公クロの演目の説明が現代に向けて訳されていて楽しそうに見えてくる。クロが勧誘したメンバーと一緒に見る演目のシーン(『菅原伝授手習鑑』の『寺子屋』)のくだりが結構面白くて、興味深かったな。あの人が涙する意味は受け手側でいくつも解釈できる自由さもあるのかだなーと。

あー部活ものって良いなぁ。人間関係や物事に打ちこむ姿が豊かに描かれていて好きです。 


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『ブラックスローン インディゴの夜』加藤実秋 [読書]

ブラックスローン インディゴの夜 (集英社文庫)

ブラックスローン インディゴの夜 (集英社文庫)

  • 作者: 加藤 実秋
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2014/03/20
  • メディア: 文庫

ホストクラブ『club indigo』の客が殺された。手帳からホストに疑いを持たれたため、オーナーの晶は事件解決に乗り出す。探っていくうちに、殺された女性はインターネット上でもう一つのインディゴを経営していて? シリーズ第5作。

久しぶりに本シリーズを読んだけど、相変わらずサバサバした晶と喧しいホストメンバーの組み合わせは面白くて好きだな。歳の差もあってか晶の感覚とホストたちの感覚の落差が楽しいのかも。

今回の事件は現代の問題らしいネット関係から縺れたもの。なんとなくだけど、ヤクザとか裏組織が出てくるような非現実的なものより、身近に潜む危険を扱った題材の方がこのシリーズは映えるような気がする。個人的に好きな一冊でした。出番は少なかったものの空也の登場は嬉しかったな! 前巻から引き続き貸しを一つ増やしてしまった晶は、今後どんな対価が待っているのか楽しみ楽しみ。ということで空也メインの話を期待。。


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『死神の浮力』伊坂幸太郎 [読書]

死神の浮力

死神の浮力

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/07/30
  • メディア: ハードカバー

幼い娘を喪った山野辺は復讐の時を伺っていた。無罪判決を受け社会に戻ってきた犯人に復讐を遂げるため、いざ妻と行動を起こそうとした矢先、奇妙な男が家に訪ねてくる。千葉と名乗る男は、行方不明中の犯人の居場所を知っていると言うのだが…。

死神の千葉が帰ってきた!相変わらず、飄々とした佇まいとひとと噛み合わない言動が楽しくて、好きだなぁ千葉さん。

若い夫婦が大切なものを壊した犯人に復讐を遂げようと闘うも、敵の狡猾な策略に屈服させられそうに。そこで千葉が登場することで予定調和で運ばれたかもしれない展開が所々崩れ始めていくのが痛快でたまらない。どこか人とズレた感覚を持ち行動する姿は時に苛立つこともあるけれど、そんなところも含めて面白い死神だなー。

犯人と対峙するなかで山野辺は「死」について終始考えている。父親と遊園地のくだりで気付かなかった視点が見えた時は思わずぐっときてしまった。 死の捉え方って年をとるごとに変わっていくような気がするけれど、自分は今後どう捉えていくのだろうか。

物語が始まるきっかけや対峙する犯人の人物像でひどく心を重たくしたけれど、読み終えた時は気分が浮上できた。千葉が関わるひとたちの物語をまたいつか読みたいな。


タグ:伊坂幸太郎
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『世界螺旋 ―佐能探偵事務所の業務日記―』梨沙 [読書]

世界螺旋 ―佐能探偵事務所の業務日記― (コバルト文庫)

世界螺旋 ―佐能探偵事務所の業務日記― (コバルト文庫)

  • 作者: 梨沙
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2014/02/25
  • メディア: 文庫

所長は眼帯+特殊な能力を持った高校生・戒、そして彼の兄が社長を務めるたったふたりきりの「佐能探偵事務所」。父の浮気調査を頼んで以来、事務所に出入りするようになった美姫は、最近戒の様子がおかしいことに気がつく。

表紙の少年(=戒)を中心にした推理ものかと思ったら、女の子が少年を救うために世界を変えようと駆けるSFものだった。表紙だけの先入観で読み始めたから、まったく違う展開が待っていて驚いた。著作のなかでは少し毛色が違う作品のよう。

人も物も関係なく結果的にどの世界も同じ結果を迎えてしまう”質量が均一な世界”という事実は、考えてみれば何だか空恐ろしい気分になるし、並行世界の「壊れる瞬間」を偶然見えてしまう少年・戒の苦しみが重くのしかかってくる。 だから、戒と美姫の甘酸っぱい掛け合いを楽しみつつも、嫌な予感が拭いきれず、そして最悪の展開が彼らを襲ってしまう。

負の連鎖を断ち切り、大切な人を救うために美姫が動き始めてからが本編の見せ場なのではと思う。てっきり戒を筆頭にした日常系ほのぼの話と思っていた当初の想像を遥かに上回るお話でした。世界をまたいで、女の子が頑張る命がけの恋のお話。うわー好みだった。

並行世界や時間軸が入り乱れて基軸の世界が今どうなっているのか混乱しつつも、頑張る美姫の姿は素敵で、見入ってしまった。 


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『思い出のとき修理します』谷瑞恵 [読書]

思い出のとき修理します (集英社文庫)

思い出のとき修理します (集英社文庫)

  • 作者: 谷 瑞恵
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/09/20
  • メディア: 文庫

勤め先の美容院を辞め、恋人とも別れた明里は、かつて幼いころに一度だけ祖父母に預けられた地へ引っ越す。思い出の商店街を歩くなかで、奇妙なプレートを飾ったお店を見つけて…。

この物語に流れるゆっくりとした時間が素敵で、心地良かった。時間ばかりを気にしている日常から、ほんの少しフラットな気分で時間を見つめなおした一冊。谷さんのお話は久しぶりに読んだけど、少女小説よりも大人な雰囲気と、変わらない細やかな描写が相まっていて素敵だなー。事情があり引っ越してきた明里は、時計屋の青年(通称・時計屋さん)と妙な縁で度々行動を一緒にするんだけど、時計屋さんの物腰が柔らかくて、一緒にいるとほっとするのが伝わってくる。まろやかなぬくもりが感じられて、この二人の距離感がとても好き。

表題の通り、思い出が修理されていく光景には、じんわり暖かい気持ちになった。少し幻想的な描写があるけれど、「そうあってほしい」光景が広がっていて、救いがあったなと。やり直したい、変えたくても過去は変えることが出来ないと分かっていて生きているけれど、時の経過や別の視点から気づくことで過去も変わるのだと思った。

二人の関係は勿論気になるし、さりげなく太一の存在が謎めいていて気になる…。 


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『名探偵に薔薇を』城平京 [読書]

名探偵に薔薇を (創元推理文庫)

名探偵に薔薇を (創元推理文庫)

  • 作者: 城平 京
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1998/07
  • メディア: 文庫

怪文書『メルヘン小人地獄』がマスコミ各社に届いた。その創作内容は、小人による無実の者への残酷な殺し方を描く、薄気味悪い内容だった。やがて、メルヘンをなぞったかのような殺人事件が起きて…? 名探偵の少女が暴く謎に秘された真実の感情とは。

…凄い。呆然としてしまう。読み終えてからしばらく、心の整理がつかなくて、ヨロヨロした…。
ここまで、頭をガツンとやられたのは久々の感覚です。素晴らしい物語を読めた幸せな気持ちと、登場人物へ馳せる悲しさや苦しい気持ちがないまぜになって、呆然とするしかなかった。(読み終えてから一ヶ月近く経つというのに、思い出すだけで苦しい気持ちが込み上げてくる。。引きずるなぁ)

絶望的な状況が、名探偵の少女による推理で鮮やかに逆転していく第一部に夢中になり、第二部では限りない哀しみで閉幕するラストに言葉もない。彼女が探偵であることの業、そして行く先を考えずにはいられない。幾度も衝撃を受けたけれど、全てを覆されるラストに打ちのめされて、余韻と呼ぶには重い読了でした。凄い。 
たぶん私がこんなに惹き込まれているのは、勿論しっかりしたミステリの部分もあるけれど、前提は登場人物たちが向ける各々の感情なのかな。誰かを想い、思い合っているはずなのに理解しきれていない部分が、悲劇を引き起こしてしまう。誰のせいでもなく、もちろん名探偵のせいではない。けれども、彼女は業を背負う位置にならざるを得ないことがただただ、せつない。

著者はマンガ『スパイラル』のストーリー担当の印象しかなかったけれど、豊潤な推理ものも書く人なんだなぁ。他作も読むよ。


タグ:城平京
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『うちの執事が言うことには』高里椎奈 [読書]

うちの執事が言うことには (角川文庫)

うちの執事が言うことには (角川文庫)

  • 作者: 高里 椎奈
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2014/03/25
  • メディア: 文庫

留学先のイギリスで突如、父から家督を譲られた花頴(かえい)。大好きな執事の鳳が待つ家へ急ぎ帰ってみれば、父は世界一周の旅にでかけ、鳳は父の後に付き従い旅立っていた。そして、彼を待つのは「新しい執事」と称す見知らぬ青年で…?

この、初対面で互いに悪印象を抱いて反発し合っている主従もの…良いね! 佐原ミズさんの美麗表紙からも、二人の関係がありありと見えてきて、にやにやしてしまう。主従契約結びたての二人が、話を重ねていくごとにお互いへの認識を改めたり(或いは元の感情に戻ってしまうこともあるけど)、ぎこちない距離感を少しずつ縮めていく姿が良かったです。特に、花頴がネクタイを衣更月(新しい執事の青年)に渡すくだりが好き。信頼関係もろくに築けてないと、変に誤解を受けたり、意固地になってしまったりと余計混乱を招くことになるんですよな構図がね。

稀にしか登場しないものの、鳳元執事(今は昇格して家令)の存在感が大きいな!困ったときは鳳さん、の構図が今後どう変わっていくのか気になるところ。まぁ、個人的にはムードメーカーの赤目さんが大好きなんですけどね!もっと、彼の迷惑っぷりを見てみたい。

まだまだ課題ありと見えるも、大いに期待値ありと思って、今後の主従関係を楽しみにしたいと思います。(と、次巻があることを信じている!!) あと、どの作品になっても高里さんの文章が好きー…。一つ一つの文章が丁寧な印象で、読むのが嬉しくなる。


タグ:高里椎奈
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『パーフェクト・ブルー』宮部みゆき [読書]

パーフェクト・ブルー (創元推理文庫)

パーフェクト・ブルー (創元推理文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1992/12
  • メディア: 文庫
高校野球界のスター選手がガソリンに火をかけられ焼死するというショッキングな事件が起こる。弟の進也は私立探偵所の調査員・佳代子と元警察犬のマサと遭い、真相解明に乗り出す。

犬視点が面白かったなぁ。伊坂幸太郎さんの『夜の国のクーパー』思い出した。夜の~は、猫と人が自然に話す不自然な空間があって(これも好き)、今回はマサと人間とは言語の理解は出来ないので雰囲気はだいぶ違うけれど。人間の行動の矛盾さを、どうしてもっとこう…と犬目線語るマサが何だかおかしかったな。

とはいえ、一見怨恨に見えた事件が別の視点の介入によって段々と様相が変化していく”先の得体の知れなさ”に終始占められていたような。そして、事件の真相が当初想像していたものよりも深く…苦いもので。これは、ちょっと彼には救いがなさすぎる。けれど、確かなあたたかさもあったと感じたからこそ、最後はさわやかな気持ちで読了できたかな。

どうやら続編?というか短編集があるようなので、近々手を出そうかと。面白かった! 

うらりさん、オススメありがとうございました!


タグ:宮部みゆき
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