『セーラー服と黙示録』古野まほろ [読書]
孤島に浮かぶ、ヴァチカン直轄の’探偵’を養成する学校―聖アリスガワ女学校。卒業試験により鐘楼に閉じ込められた二人の少女は、明け方に鐘楼尖塔に磔の姿で発見されてしまう。麗しき青年神父と三人の探偵少女が事件の謎に踏み込んでいく。シリーズ第一弾。
はじめて読む方の本だったけど、とっても好みの一冊だった! 三人の女学生が自らの得意分野で真実を突き詰めていくのが面白かったな。学園の深淵は、ほんの少ししか見れてないだけで、まだまだおぞましい事実が潜んでいるんだろうなぁ…。非常に特殊な世界で時々難解なところがあるものの、読みやすく何より続きが気になってぐいぐい読んでしまった。
青年神父とか、とある少女の背負うものとか、もう少し踏み込んだところを読んでみたかったな。
ところで、「聖アリスガワ女学校」とか「水村英生」とか、某シリーズ某著者をほうふつとさせる言葉が出てきて、かの人と何かしら縁のあるひとなのかなと思ったり。しかも由来がそれらしく記載されていて、にやけずにはいられなかったよね。。
『烏に単は似合わない』阿部智里 [読書]
姉姫の代わりに世継ぎの若宮の后候補として宮廷に赴くことになった「あせび」。八咫烏が支配する世界で、春夏秋冬の名を持つ四家より遣わされた姫君たちの雅で熾烈な争いの先は…。シリーズ第1弾。
若宮の寵愛を受けるためお家ぐるみで競う麗しき春夏秋冬の姫君たちの物語と思ったら!終盤にかけての展開が思いがけないもので、すっかり、すっかりやられました。
特筆すべきは八咫烏の世界観や情景描写!緻密な舞台なのに違和感なくするっと世界に入れました。『獣の奏者』読んだ時のような驚きだ…。最後まで読み終わると印象が変わりますが、月夜に舞い散る桜吹雪の場面がお気に入りでした。そして、登場するものたちの物語に魅力とおそろしさを抱きましたよ。特に中盤で明かされるとある姫の物語が切ない。(第三者から見ると結構薄気味悪い雰囲気出していたのに…)それにしても初見で抱いた印象が最後には大幅に変わるとは。。
中盤までは酒見さんの『後宮小説』を彷彿とさせる雰囲気で、これは少女小説読みさんは特に好きではないかなぁ。 ある姫が仮面を剥いだあたりが女の闘い&政の駆け引き最高潮だったー…。
続編も今作とは雰囲気が変わり主従たちが活躍すると聞いているので、ぜひ読みます!
毛利志生子『ソルティ・ブラッド 狭間の火』 [読書]
京都府警刑事課に所属する新卒キャリアの宇佐木アリスは、ある放火事件の捜査を担当することになった。捜査するうちに、彼女は人間の血液を主食とする者たちの存在を知り・・・。
まだ序章のうちに入るけど、これからが楽しみな一冊! 現代に人知れず共生している「吸血鬼」。主人公アリスは、事件捜査と彼女自身の体質―事件や現場に居合わせる確率がとても高い―によって、 彼らの領域へ踏み入れることになり・・・。新卒刑事アリスと吸血鬼の理一との関係が面白いです。現時点で糖度がほぼ無い状態から・・恋愛になるのか友情になるのかさえも未知数のため、どんな転がり方になるか楽しみです。
と、続編前提で考えてしまっているけど、出るよね・・・?
(同文庫でお気に入りの『下鴨アンティーク』が単発ものかと思ったら6月に続編が出るそうなので、これもシリーズもののひとつだと思いたい・・!)
『異人館画廊 贋作師とまぼろしの絵』谷瑞恵 [読書]
英国で図像学を学んだ千景は、ブロンズィーノの贋作の噂を聞き、幼馴染みの透磨と共に高級画廊プラチナ・ミューズに潜入する。そこでは怪しい絵は見つからなかったが、後日、ある収集家の持つ絵画が展覧会で見た絵とタッチが似ていることに気付く。しかも鑑定を依頼してきたのは透磨の元恋人で・・・。シリーズ第2弾。
二人の距離感がたまらん!かつて距離が近かった記憶を取り戻してほしいような、でも事件も思い出すことでもあり千景を傷つけてしまう恐れから思い出してほしくないと、矛盾した思いを抱いて悶々する透磨。千景の祖父との約束もあり美術品のように大切にしたいのに、人間らしい独占欲が出始めてきて動揺したりと、1巻でクールなヒーローと思っていた彼の姿が段々変化していて面白かったです。絵に込められた想いをなぞり、紐解く才があることで孤独を背負う宿命だと半ば諦めて受け入れている千景も、『異人館画廊』で集うメンバーたちと関わったことで他者との接し方に欲が出てきて、人形っぽさから人間らしさになってきた印象。(特に透磨との掛け合いが大きい!)そんな今の千景に透磨の元恋人と会う機会を作るとは(笑)
スローペースな恋愛面も段々と本領発揮になるのかな。楽しみのような、今の絵画をベースに恋愛はほんのり程度の現状も好きなので、、気になるところ。
『うちの執事が言うことには4』高里椎奈 [読書]
烏丸家元当主の花頴の父とその家令・鳳が突然烏丸家に帰ってきた。ほぼ強引に当主の座を渡された花頴に対し「当主を辞めたいなら、僕が替わるよ?」と花頴の父は言い放ち…。シリーズ第4弾。
様々な事件や衝突を経て、少しずつ、けれど着実に二人らしい主従関係を築きつつある花頴と衣更月。そこへ花頴の父と家令の鳳が帰ってきて、さらに二人の関係に変化をもたらしてゆきましたね。わりと強引に(笑) やはり前当主と前執事の主従を前にすると、花頴たちの主従関係はまだまだ発展途上ではありますが、それでも段々息が合ってきている二人を見ていると微笑ましいやら初期のちぐはぐさが恋しいやら。花頴の父を尊敬するあまり、花頴を自分の主として本当に受け止めていないのではと懊悩する衣更月の独白があり彼にとっては苦悩しているけれど、、傍から見れば無自覚なだけで立派に「花頴の為」に行動しているようにしか見えません。特に最後のエピソードとか!1巻の冷めた感情が嘘のような変貌ぶりです。花頴の行動も、衣更月への信頼と情が伺えて、ますますよくなってきたなぁこの二人。
ところで、前回の件があったから出番を懸念していた赤目さんですが普通に登場して、結構おいしい立ち位置をちゃっかり確保していました。さすがです、赤目さん。花頴の良き(厄介な)友人として、今後もちょっかいかけてくるのかなと思うと楽しみ。
『うちの執事が言うことには3』高里椎奈 [読書]
半熟ながらも次第に主従関係を確かなものにしつつある烏丸家の当主花頴と執事の衣更月。しかし烏丸家に新たな脅威が襲いはじめ…。
2巻の予告通り、花頴の騒がしく厄介な友人である赤目青年の本性が顕わになった本書は、今までで一番の脅威でした。とはいえ、、赤目青年大活躍の話に至るまで、花頴と烏丸家の人たちとの間には疑いようもない関係が築き上げられている話を見ていると、実際赤目青年の話になったときは実は余り心配はしていなかったような。
衣更月の憧れの対象である執事の鳳と花頴の父の主従関係に今までとらわれがちであったのが、ラストの衣更月の一言で、二人らしい主従関係を着実に歩み寄り始めているなとニヤニヤしてます。花頴らしい主人の在り方も頼もしく、幼い部分も残っているものの、花頴への安心感が大きくなって気がします。
『下鴨アンティーク アリスと紫式部』白川紺子 [読書]
旧華族の娘である鹿乃は、休日になると祖母のおさがりの着物で過ごす。ある日、祖母から開けてはならないと言われていた蔵を開けると、次々と不思議な出来事が起きてしまい・・・。
副題の組み合わせに惹かれて手に取った一冊でしたが、想像以上のストライクゾーンに入ってしまった!面白かったなー。
着物の柄が変わってしまう等、蔵に収められていた物が次々と不思議な現象を出し始める謎を解いていくのだけど、文学の知識と絡めつつ物に込められたひとの想いを紐解くような展開は切なくもほっこりしました。特に三話目の、鹿乃の祖父母のエピソードには!じれったくやきもきさせられる二人でした。祖母の日記を追いかけていく形式だからか祖母の視点のみで描かれているのだけど、それがまたいじらしさと祖父に翻弄される様が想像できて、ニヤニヤしてしまった。
もちろん、主役の鹿乃と下宿している准教授の慧は、祖父母とは違った方向でニヤニヤできる二人でした。ほんのり恋愛成分がたまらなくじれったくて、今の二人の関係も落ち着いていて。一歩先に踏み込む関係も見てみたいので、是非とも続きを読んでみたいなー。
『黒猫の約束あるいは遡行未来』森晶麿 [読書]
仏滞在中の黒猫は、恩師の依頼でイタリアにある<遡行する塔>の調査に向かう。一方、付き人は学会参加のため渡英することに。シリーズ第5弾。
肩を並べる二人を見られただけで、たっまらなかった。お預けをいただいていた分、再会のシーンからラストまですっかり魅了されちゃった。
黒猫と付き人が美学を論じ謎を解いていく姿を見ると、やっぱりこの二人の関係たまらなく好きだ!二人らしい距離の取り方も、一見遠回りのような面倒さがありつつも深い優しさに包まれていて落ち着く(けど、今回はもどかしさ倍増!!)。恋愛面もたっぷり楽しんだし、今回の建築と映画という別の観点から真実が導き出される過程にロマンスと美学が練られていて面白かったです。十五年の歳月か…。謎解きのために過去を遡行する描写が多くありつつも、様々な未来を可能性を考えれられるラストでした。
さて黒猫と付き人、それぞれライバルらしき人たちはいるけれど、最終的に一番の壁は自分自身なのかな。付き人が感情を爆発させたシーンは胸が締め付けられました。このシリーズの登場人物たちって、感情の引き出しをあまり見せない気がしたから、シリーズ通して段々新しい一面が見られて嬉しい。特に黒猫、黒猫が…!
はー、この満ち足りた感覚。時間を忘れて小説の世界に入り込めるって、本当に楽しい。
『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』高殿円 [読書]
2012年、オリンピック開催に沸くロンドン。アフガン帰りの軍医ジョー・ワトソンは住まいと仕事探しに鬱々としていた。友人からフラットシェアを勧められたものの、同居人は変わった女性で?
シャーロックホームズが男女逆転した、現代版ホームズ! ホームズもワトソンもレストレード警部も、もちろんあの人も…今のところ登場人物、全員女性で占められている。 女性化と舞台を現代に移すことに伴って、キャラクタの造詣も現代ならではの設定に。原作の人たちの特徴を上手く現代版に置き換えられていて面白い。’ミセス・ハドソン’の変貌ぶりが特に思い切っていて可笑しかった。(それがまた、妙にしっくりはまっているのが良い)
また事件の内容としても女性ならではの視点が入ることでおそらく原作ホームズにはない広がりと魅力を兼ねたミステリものに仕上がっているなーと思ったり。
今のところシリーズものと書かれてはいないけれど、是非とも続きを読んでみたい。1冊単発ものとしては、あまりにも気になる箇所があり過ぎる。原作要素を取りつつも、本作のワトソンやシャーロックが抱える問題が今後どう展開され原作と絡まっていくのか気になる。それにしても、当時の物語を回想の形式で書かれているのを見ると同著の『カーリー』を思い出さずにはいられない。振り返る過去が生き生きとしたものなら尚更か。。
もし続きが出るのなら、アイリーン・アドラーに対なる人とか見てみたいな。本書の法則でいくなら、とんでもない男性に化ける予感…(笑)
『うちの執事が言うことには 2』高里椎奈 [読書]
花頴はイギリス留学中に教授を受けた恩師と再会する。複雑な”目”により周囲の関係を上手く築けない花頴の拠り所である恩師との再会は花頴に安堵をもたらすが、執事の衣更月は知らず複雑な感情を覚えて・・・?(「三本の木」) 新米主従関係が動くシリーズ第2巻。
2巻出て嬉しい!それに3巻の予定もある!今回とっても気になるところで終わってるので、待ち遠しいー・・・。
1巻はお互い距離感をつかみあぐねていたり、職務と感情を分けて接しているようなところがあって前途多難かもと思っていました。が、今回は二人なりの主従関係が出来つつある歩み寄りが見られました。花頴はちょっとした反抗心を持ちつつ歩み寄りを見せる一方で、衣更月の花頴への距離は変らぬまま―と思いきや、所々で感情が漏れていて面白かった。とある件では、「執事」としてのプライドなのか「花頴の執事」としてのプライドなのかと自問自答し、悩むようになったとは・・・! 憧れの鳳のような執事を目指すのであって仕える主は誰でも良いとしていた意識が段々変化していく姿に、いろんな主従の可能性が見えてきたなと。「当主は何度でも我儘を言うもの」と主張する花頴への返しの言葉が、二人らしい主従関係を築けるのではないかなと期待高まります。
ところで、、お気に入りの大学生実業家・赤目青年がついに本性出し始めたわけですが―これはまた、相当厄介そうだなぁ。花頴たちは太刀打ち出来るのだろうか。。SSでも真っ黒な一面を押していて、つくづく捻くれているニヒルなキャラクタに弱いなぁと思いつつ3巻の彼の活躍に不安な気持ちが勝ってます。