『蜜蜂と遠雷』恩田陸 [読書]
国際ピアノコンクールを舞台に、挑戦者たちが己の限界を引き出し音楽を奏でる。かつて天才少女とうたわれたが、あることを境にピアノが弾けなくなった少女。優勝候補筆頭と噂される完璧な美青年。音大出身だが今はサラリーマンとして勤めている男性。そして、養蜂家の父とともに各地を転々とし、ピアノを持たない不思議な少年。第一次から第三次そして本選にかけて、彼らの音の調べが繰り広げられる。
心揺さぶられ、また心ゆくまでこの物語を味わった。
本を読むことの歓びってこうだった。時間を忘れて、物語にのめり込み世界に浸る感覚。読み終えたときに、現実に戻ってくる眩暈のような感覚。 ただひたすら、夢中になれることの多幸感を思い出した。
挑戦者たちが生み出す音の調べは、曲を知らずとも映像で視えるような錯覚に陥って、興奮と同時に恐怖を抱かせる時間でした。初めて受ける衝撃は、快感と嫌悪を引き起こす。まさに挑戦者たちを評する側のキャラクタが抱いた感情を読者にも体感させる一冊だったのではないかなと。
文字を読んでいる状態で、視覚と聴覚も使われる錯覚に、興奮と同時に恐ろしさを感じてしまった。
曲目はほとんど知らなかったけれど、だからこそ、描かれる情景に自然と想像が膨らみ、圧倒され、より世界に引き込まれる。魔力だ、この本は・・・。濃密な時間でした。最後まで興奮が駆け抜けた一冊、本当に楽しかった。
『香水 ある人殺しの物語』パトリックジュースキント [読書]
十八世紀フランス。特異な嗅覚の才を受けた香水の魔術師が、至上の香りを求めて次々と殺人を犯していき…。
匂い立つ文章に目眩がしそう。文字を読んでいるのに、同時に匂いを嗅いだような錯覚にも陥って、酔う・・・。
至高の匂いを求めて一心不乱に切り拓いていく男の一生が、その手段が不気味かつ鮮烈で、目が離せなかった。明らかに倫理に反した生き方を読んでいるのに、ブラックユーモアな雰囲気で面白く読んでしまう。 理解できない視点で進む物語は薄気味悪さが終始纏わりついているものの、でも気になって読み進めてしまいました。。
読み終えたあと自分の感情になかなか整理がつけられず。最初から奇天烈な物語も、香りを嗅いでる不可解さも、極めつけのラストが凄まじいのにサラッと描かれたことにも、読み終えてから色々と衝撃が遅れて来ているのかもしれないな。たぶん。
文字を読んでいるはずなのに、匂いを感じ取ってしまう、そんな錯覚をせずにはいられない気味の悪さ(料理ではない、普段意図せず嗅いでいる匂いを感じ取ってしまう)。匂いを発している本。不思議で、不気味だからこそ印象に残る読書体験だったなー。
『ハーモニー』伊藤計劃 [読書]
<大災禍>により破壊された世界が、新たに構築した社会は、全ての人間が等しく平等に、傷つけられることがない絶対的な安定した世界だった。世界に鬱屈した思いを抱えていた少女トァンは、謎めいた少女ミァハと出会い―。
ハーモニー。犯罪や病気の無い調和された幸福な世界。蔓延っている負の要素を徹底的に排除した社会は、わたしという魂が存在しうる世界なのか。考え込んでしまう一冊…。
全体的に、物語を構成する世界の在り方や、構築するまでに至った人の感情の発想が面白かったけれど、物語の主軸であるトァン・ミァハ・キアンの三人少女が居たからこそ、のめりこんで読みふけたのかな。
トァンが辿り着いた真理を、物語最後の会話を、頭の中で繰り返し咀嚼していく。 トァンに向けたミァハの言葉を反芻しながら、彼女の意思を、感情を思いはせる。
『虐殺器官』『ハーモニー』を読んだ今だからこそ、改めて、次の物語を読みたかった。殺戮の世界、調和のとれた世界を描いて、その次の世界はどのような光景が映っていたのだろう。本当に、残念だけれど、この本を読めて本当に良かった。
『天冥の標1 メニー・メニー・シープ 上・下』小川一水 [読書]
西暦2803年、地球からの植民星メニー・メニー・シープは入植300周年を迎えようとしていた。しかし土地を統治する臨時総督のユレイン三世は、地中深くに眠る植民船シェパード号の発電炉不調を理由に、植民地全域に配電制限などの弾圧を加えつつあった。セナーセー市の医師カドムは、《海の一統》のアクリラから緊急の要請を受ける。街に謎の疫病が蔓延しているというのだが……。シリーズ第1弾。
なんだこの面白いやつはー!と内心叫びつつも、とんでもない虚脱感に襲われて読了。お、お、面白かった…。
個人的に話が濃密そうなファンタジー・SF系の長編作品はここ無意識に最近避けていた節があったので、久しぶりに手に取りました。
第1巻は世界観の説明面が強いものの、植民星に住む人や種族、そして勢力図が濃い! 出そろった人々たちが、様々な思惑や激情を孕みつつも非情な弾圧を加えている統治者に向けて戦う…話かと思ってたのに、下巻の最後で、全ての予想が(良い意味で)裏切られてしまった。こんなに出尽くして、盛り上がりきって…その後にどう話が続くんだ…?
かつて六つの勢力―【医師団】【宇宙軍】【恋人】【亡霊】【石工】【議会】それぞれの話を読んでみたいな。人体に電気を体内に取り込み海中でも呼吸できる《海の一統》たちの話とか(アクリラの風貌が、宇宙がテーマということもあって、某茅田作品に出る金髪の天使を彷彿とさせました)、個人的に石工(メイスン)たちの動向が、上下巻通してとても面白かった。古からの契約により人に支配され、考えることすら放棄してしまった種族たちの自己の尊厳の復活に至るまでの話が、熱い。
あと、小川さんの物語を読むのは本作が初めてだけど、こうも恋愛面のフラグがぼっこぼこに立ち上がってて驚いた。そして心構え持たせる間もなく絶望に叩き落すんですね…。文章も読む前からもっと硬い雰囲気かと思っていたので、随分読みやすかったなー。
今後、どんな風に話を持っていくのか非常に気になる!!!
天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)
- 作者: 小川 一水
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/09/30
- メディア: 文庫
天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)
- 作者: 小川 一水
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/09/30
- メディア: 文庫
『ぐるりよざ殺人事件 セーラー服と黙示録』古野まほろ [読書]
断然、一作目より好みな一冊!
少女たちは、今後、根源となる勢力に抗っていけるのだろうか。。
『探偵・日暮旅人の探し物』山口幸三郎 [読書]
『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』米原万里 [読書]
1960年、プラハ。小学生のマリは個性的な友人に囲まれていた。男の見極め方を教えてくれるギリシア人のリッツァ。嘘つきでもみなに愛されているルーマニア人のアーニャ。クラス1の優等生、ユーゴスラビア人のヤスミンカ。三十年後、旧友たちを訪ねに激動の東欧に足を運んだマリは、少女時代に隠されていた彼女たちの真実を知る。
ロシア語通訳の著者がソビエト学校に通い様々な国の友人たちと過ごした少女時代を綴ったエッセイ。エッセイなのだけど、マリの友人である三人の少女のエピソードに、それぞれ臨場感あり物語を読むような感覚でした。そう、小説のような非現実な日常をマリ(著者)は過ごしたんだなぁ。なんとも言えない余韻が残る一冊で、この本を思い出すとおなかの芯のところが渦巻くような気分になります。。
民族や社会の思想って、何だろうと改めて問いかけられたような。ひとの奥底に根付くものや思想や政治的背景による対人関係を―少女の目を通してみた世界に圧倒されました。中でも表題にもなっているアーニャの話は衝撃的。自分の周りの環境によって人格はかたどられるとは思うけれど、それにしても激動する社会の中で身を置くためにはそうならざるを得なかったのか、それとも…。再会したときの著者の心境を思うと、複雑でした。
本当に読みごたえがあった!いつも読むようなジャンルとは全く異なるものだったので、新しい思想や考えに触れることも多くて、とてもおもしろい一冊!
『ことり』小川洋子 [読書]
人間の言葉は話せないけれど、小鳥の言葉を理解し話すことが出来る兄と、兄の言葉を唯一理解できる弟。小鳥たちの声だけに耳を澄ます二人は、つつしみ深く一生を生きた。
小川洋子さんの文章は本当に美しくて、自分の中で嫌なものが取り払われて心穏やかな気分になる。
ただただ静謐で、穏やかな日常に満たされる。小川さんの作品を読むときは、独自の世界のまま陶酔させずに、目を背けたくなるようないやらしい現実も入れてくるので色んな気分にさせられるなぁ。人間の言葉を話さず、小鳥の言葉「ポーポー語」のみを話す兄と弟の生活は所謂、世間の目からすれば奇妙に映る光景で。ただそれは社会からの視点であって、二人のつつましい日常を脅かすものではない。振り返れば、兄と弟の暮らしを描いているのは本書のうち半分にも満たされていないのだけれど、とても印象に残る。
それにしても、表題がひらがなには意味が込められてたのか…。
ひとりになった弟の暮らしを最後まで読み終えると、思わず最初の数頁を読み返して、ようやく読み終えた実感を持ちました。穏やかな余韻に浸った一冊。
『宝石商リチャード氏の謎鑑定』辻村七子 [読書]
大学生の中田正義は、酔っ払いに絡まれている宝石商と・リチャードを助けたことをきっかけに、隠し持っていた宝石の鑑定を依頼することなる。絶世の美貌を持つ宝石商と直情型の真面目な青年が、宝石にまつわる謎を解き明かす。
面白かったー!!良いコンビものでした。
初読み作家さんですが、初めて読む人の文章はとても新鮮だなぁとしみじみ。進め方も登場人物の話し方や台詞回しも目新しくって面白い。…にしても面白かった。
宝石をめぐる人間関係が、ほろ苦さが残りつつもあたたかみのあるドラマがあって、夢中になりました。+単純に宝石への探究心が出てきてわくわくしながら読んだ!宝石にまつわる蘊蓄が登場人物の話に絡んで繋がった時も良かったけれど、宝石という新しい知識を吸収できるのが面白かったなー。宝石にも和名があるんだね・・話に出ていた「ざくろ石」という言葉がとっても粋な響きで好き。
主人公の誤解を招くような発言が玉に瑕だけど、素直さ故と思えば微笑ましい…のかな…。態度が分かりやすい助手と、感情が分かりにくい(けど、読み進めるとクセが分かってきて読者にとっては分かりやすくなってきている。。)雇用主という楽しいコンビが増えました。続き出てほしい!
『美少年探偵団 きみだけに光かがやく暗黒星』西尾維新 [読書]
学園のトラブルを非公式非公開非営利に解決すると噂される謎の集団「美少年探偵団」。十年前に一度だけ見た星を探す少女が、個性豊かなメンバー5人に依頼を託したことが騒動の幕開けに―。シリーズ第1巻。
西尾さんの本読むの久しぶりだな!一番夢中になっていた時期(戯言シリーズ)から数年ぶりに新作を読みます。講談社タイガという目新しいレーベル名のラインナップが気になったのもあるけれど、「美少年」と「探偵団」と名がついて、しかも超個性のキャラクターを生み出す西尾さんとあっては、読まねば!と思い、つい…。変わってなかった!軽快な言葉のやり取りや、次第にスピードが乗って最後までぶっ飛ぶ展開の壊れ具合とか。シリーズ比大人しめかなと思っていたキャラクターたちも、一筋縄ではいかない美少年たちばかりで、彼らに振り回される唯一のヒロイン・眉美ちゃんの今後が心配…ではなく楽しみです。
すっかり好きになって、さっそく2巻も読みましたが、1巻で目立っていなかったメンバーにスポットライトが当たったり、美少年探偵団に対抗勢力が出てきたり、眉美ちゃんの立ち位置がだんだん確立してきたりと、ますます楽しい展開になってました。今後の刊行予定が、さすがの西尾さんペースなので、あまり間をおかずに新刊読めるみたいです。気になる!