『蜜蜂と遠雷』恩田陸 [読書]
国際ピアノコンクールを舞台に、挑戦者たちが己の限界を引き出し音楽を奏でる。かつて天才少女とうたわれたが、あることを境にピアノが弾けなくなった少女。優勝候補筆頭と噂される完璧な美青年。音大出身だが今はサラリーマンとして勤めている男性。そして、養蜂家の父とともに各地を転々とし、ピアノを持たない不思議な少年。第一次から第三次そして本選にかけて、彼らの音の調べが繰り広げられる。
心揺さぶられ、また心ゆくまでこの物語を味わった。
本を読むことの歓びってこうだった。時間を忘れて、物語にのめり込み世界に浸る感覚。読み終えたときに、現実に戻ってくる眩暈のような感覚。 ただひたすら、夢中になれることの多幸感を思い出した。
挑戦者たちが生み出す音の調べは、曲を知らずとも映像で視えるような錯覚に陥って、興奮と同時に恐怖を抱かせる時間でした。初めて受ける衝撃は、快感と嫌悪を引き起こす。まさに挑戦者たちを評する側のキャラクタが抱いた感情を読者にも体感させる一冊だったのではないかなと。
文字を読んでいる状態で、視覚と聴覚も使われる錯覚に、興奮と同時に恐ろしさを感じてしまった。
曲目はほとんど知らなかったけれど、だからこそ、描かれる情景に自然と想像が膨らみ、圧倒され、より世界に引き込まれる。魔力だ、この本は・・・。濃密な時間でした。最後まで興奮が駆け抜けた一冊、本当に楽しかった。
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