嬉野君『金星特急6』 [少女小説]
シリーズ第6弾にてクライマックス間近。待ち望んでいた再会後もよりいっそうに緊迫感と糖度MAXという稀な事態を引き起こしてます。ぐわー! 見せ場盛り沢山な中特にグッと来たのは、兄弟の再会とあの二人の距離がついに!だった(挿絵付き)所。錆丸、砂鉄、ユースタス主要メンバーを固めるキャラクタ陣にも胸熱な場面がついていて、ああもうどうしたらいいのだろう。好きすぎる。夏草と殿下の場面とか、無名の独白とか、色々と覚悟がうかがえて…。誰もが無事に済まない状況になっている。全員が顔合わせた時に何が待ち受けているのか…考えただけで怖い。断ち切れない思いは深くて苦しい。
歯止めが効かなくなってきた砂鉄の実妹・彗星に、退場したと思っていた伏兵の反撃の一言、黒耀の狙い…。不安要素が色々積もる中、次で最終巻。本当に?! 世界を揺るがす、命がけの大恋愛は叶うのか。この物語に安穏とした結末が訪れるのか。今すぐウィングス本誌を買う欲望と戦いながら、最終巻に臨みたいと思います。 振り返ってみれば金星特急1巻が発売してから丸2年。キャラが増え、一人一人にドラマがあって、目が離せなくなって…囚われっぱなしです。
「辛いわね」
ぽつりと呟いた。
好きな人が自分の方を見てくれないのは、こんなにも辛い。
『幽霊伯爵の花嫁』宮野美嘉 [少女小説]
突然、優しい婚約者と離れ「幽霊伯爵」の元に嫁ぐことになったサアラ。周囲から恐れられている伯爵に対してサアラは積極的に関わろうとするが彼の態度はつれない。さらに夜な夜なサアラの部屋に訪れるのは…幽霊?! シリーズ第1弾。久しぶりに新規開拓。面白かった! ヒロインはちょっと毛色の違ったお嬢様。生まれ持った血と自らの美しさのみで切り開いていく肉食系…もとい、行動力ある女の子でした。いっそ清々しいまでの言動に最初は戸惑うものの、芯の通った姿(綺麗に言えば)に惚れた。己の魅力を分かっていて最大限に活かす人って素敵。
そんな彼女だから、いっけん無愛想で冷酷にも見える伯爵の姿も必然的に巻き込まれていくのが楽しかったです。クール系ヒーローが少しずつサアラによって崩れていくのが微笑ましい。それに彼女にしょっちゅう突っ掛かる少年エリオスも、蓋を開けてみれば可愛い子犬がじゃれてるようにしか見えなくなってくる。伯爵への思いがけなげで可愛いのです…。
そんな感じで基本ラブコメなのかなぁと思いながら読んでいけば、サアラの言動の裏側や伯爵の背景にスポットが当たるとシリアスな雰囲気も醸し出しつつ。真逆に見える二人が実は似たもの同士なのかも?と思えるシーンやサアラと幽霊少女が言葉を交わすシーンが印象に残りました。仮面を剥ぎ取った時の、心の奥底からの言葉が。
ラストの種明かしはすごく好み。溢れてくる思いと反動でしてやった行動にニヤニヤ。あーでもやっぱりラブコメなのかなぁ。エピローグのやり取りはたまらんです。ということで、すっかりはまってしまったので続きも読んでいきます。
『花術師』糸森環 [少女小説]
花を媒介に魔術を使う異端の魔術師<砂の使徒>。その一人、”花術師”リスカはある夜、野盗から逃げた先に美しい剣を見つける。これが、美貌の<剣術師>との出逢いだった。 Web版既読。 なし崩しで最強(恐?)術師セフォーを側に置くことになり、彼の言動に挙動不審になるリスカと、見た目や気配は物騒に見えるが傍から見ればとことん献身を尽くしてるセフォーの、ズレてる掛け合いが楽しい。伝わってるようで伝わってない感じ。けど甘い!1章はひたすら身悶えしてばっかりだ。
コメディ部分は思い切りニヤニヤしつつ(特に「好き」の応酬と最後の部分。というか、リスカとセフォーのやり取りの8割はにやける)、リスカが巻き込まれた事件、その顛末の哀しさ…やり切れない気分に浸った。堕ちた「彼女」の話。すれ違いの果ての姿が、けっこう堪えた。和み要素は所々ありつつも。というか、地味にこの物語の重要パーソン(?)が小鳥さんですよ!君、空気読み過ぎみたいな、いいツッコミ!みたいな。リスカとセフォー+小鳥の掛け合いは凄い威力です。
足掛け何年の大好きなサイト様の作品がこうして書籍として手に取って読めるなんて幸せです。本当に嬉しくて頁をめくる度にやけてしまった。最初に読んだ時は高校生だった。その時の読み方と随分変わったようで、セフォー至上主義ではなくなったような。一番報われてほしいと思っているけれど、もっと悶絶してほしいとも(笑)。単体で好きなのはジャヴなので、この先色々好きなので、あの書籍化期待…! え、騎士?あの人はけっこう自業自得な…。
主人公リスカの特徴だからか、花の描写が多々あり色鮮やかなイメージが楽しめるなぁ。文章で色彩を感じられるのが好き。
『ロクサリーヌ夜話』榛名しおり [少女小説]
高級娼婦のロクサリーヌは、度々部屋に訪れては何故か一切自分に触れずに帰る海軍士官のガッシナに興味を持つ。行方知らずの妹のため条件の良い身請けを探すロクサリーヌだが、次第にガッシナに心惹かれていき…。
お久しぶりの榛名さん。まさかまた池上紗京さんとのタッグ作品が読めるとは!互いの過去や立場を考えると重たいのにひたすら二人の間は純粋で、真っ直ぐすぎてもどかしく。あー面白かった。 途中の”彼女”のあれこれや最後のネイガウスの行動に若干の不思議は残ったけど、最後まで一気に読んでしまった。なんというか、うねりを感じる作家さん。
男性の扱い方に長けているロクサリーヌがガッシナを気にすることで生まれた自分の感情(恋ってどういうものなんだろう)に戸惑うところとか好き。『アレクサンドロス伝奇』を読んでる人には少しオイシイ所も。最初の地図ページで懐かしい土地名が出ていたので、もしやと思っていたら! 久方ぶりに大好きな『王女リーズ』や『マリア』が読みたくなりました。奔流に巻き込まれる少女、の作品を描くイメージがある作家さんだけど本作はどちらかといえば自ら巻き込まれに行く少女のような。
『春陽』佐島ユウヤ [少女小説]
日常の影に在る異形の気配。飯島兄弟は訪れる異形のものや「見える」人間の依頼より不可解な現象の解決に乗り出す。
著者デビュー作は、異形のものたちが佇む現代で特殊な力を持つ兄弟たちが問題解決に奔走するお話。今作もほっとするような雰囲気が好きだなぁ。「門火」「冬桜」が特に好き。
飯島兄弟の片割れ、兄の比佐は紡ぐ言葉に力が宿る<呪言者>。弟・圭一は見鬼の才はそこそこだが妖を断つ妖刀を使い兄のサポートに回る。比佐の浮世めいた存在感、どこかしら人と一線を置いてるような佇まいに理由はあるけど、さほど負の雰囲気に流されず。
つかず離れずな兄弟の仲、言葉よりもただ側に在ることこそが互いを支えているんだなと。
「拾ってきたのか?」
「いや。なんかそこにいた」
「なら、公孫樹爺さんからのお礼かな」
「木の葉が?」
「これから育つ樹の葉だぞ? 何十年かを先取りして触れるんだ。悪くない」
「まあ、そういやそうか」
※2012/1現在絶版(涙)。アマゾンのマーケットプレイスにて在庫確認。
『桜行道』佐島ユウヤ [少女小説]
人や妖との触れ合い、別れ。そして続いてく根なしの道行き。 時が止まった者と故郷に戻れなくなってしまった迷子の妖、現世から半端な存在の彼らはそれぞれの想いを抱えながら天狗・周平の故郷を目指す。
著者は葉月あきさんより教えてもらいました。あたたかさや切なさが滲み出る一冊。淡々と進んでいる。それでも時折きらめく何か…思いの欠片やよぎる郷愁の記憶、感情や相対する者たちの掛け合い…にじんわり心揺れて、いつの間にかこの雰囲気にのみこまれる。
妖の姿を見ることができ、その姿を描けば紙に封じることのできる筆を持つ藤也。かたや呪により故郷の山へ足を踏み入れられないでいる天狗・周平。周平に気に入られたことで共に旅することになった藤也。 仲が良いのか悪いのか、けれど互いを興味深く思っているのはうかがえて。この関係をどう呼ぶのか分からないけれど、見ていて気の休まるような笑いが込み上げてくるような二人だった。
台詞廻しとか言葉の置き方がさりげなくピタっとはまる感じ。派手な展開はないけど、それでいいよ。すっげぇ好き。
「ここを出て、また彷徨うようになって、だ」不意に一真が呟くように言い、藤也は少し驚いて口を噤んだ。
「いつか、どこにいてもいい、一瞬でもここに戻りたいと思ったなら、いつでも帰っておいで」
「…………」
「たとえばそこが赤の他人の家でも、誰かが待っていて、お前が戻りたいと思うなら、そういうのを家というんだよ」
(p.52より)
※2012/1現在絶版(涙)。アマゾンのマーケットプレイスにて在庫確認。
嬉野君『金星特急5』 [少女小説]
三月・夏草と離れ元月氏・黒の一鎖に捕まった錆丸。脱出を試みるが―?ユースタスは「金星特急」が停車した矢先、忌まわしい過去と再会する。そして攫われた砂鉄の妹・彗星ほか5人の女性は、この世のものとは思えない美貌の存在と対面していた―。
シリーズ第5弾。見た目も内面的にも、錆丸の成長が著しい。特に賊から一人で脱出しようと行動する場面、敵意を向ける三月と向かう姿。可愛い→かっこいいキャラクタに成長してるぜ…。三月・夏草の相棒具合も二人の強固な絆…生半可な覚悟なしの約束が痛い。今回、夏草の過去話もあって余計情が入った。
そして砂鉄・ユースタス組。もう色々とノックアウト気味でした。ユースタスはともかく、砂鉄があれほど言動に匂わせているとか、もう、ね!前回も二人の挿絵に「たまらん!」と叫んだけど、今回は巻末にとんでもないモノが待ち受けていた。たまらん…。 ユースタスにますます受難があるけれど、その分二人の糖分も増量しそうなので、ユースタスがんばれー。いや、彼女の過去を聞くと切実に!
錆丸を追いかけるお兄ちゃん一行も弟の無事を分かって一安心…? 錆丸の兄ちゃん大好き加減が十分分かった。この兄弟はいい、問題は砂鉄兄妹が怖い。妹がユースタスと顔を合わせた時に流血沙汰にならなければいいのだけど…。”彼女”の驚異的な力も間にした辺り、物騒さが残ってまだまだ気を抜けません。
『廃王国の六使徒』栗原ちひろ [少女小説]
呪術師や魔女が集う呪われた国・百塔街。美貌の青年・アレシュは父の遺産と魔香水を使って日々美と恋に耽っていた。だが、”街の浄化”という名目の国の破壊をしに訪れた司教クレメンテの驚異的な力に圧倒される。彼に対抗すべく、アレシュは個性溢れる者たちを揃え「深淵の使徒」を結成する――。
面白かったあああ!大好きー! デビュー以来の著者・絵師タッグに興奮し、想像以上の濃いゴシックファンタジー+挿絵の相乗効果に陶酔した。「きっとこうだろうな」の予想の展開を2回転ほど転がって終わった。主人公を壊れかけるまで落として堕として、そこから無様でも生きる姿とかたまらんね。
アレシュが結成した「深淵の使徒」たち。自称兄貴分の二流符術師、葬儀屋の首領、一千年近く生きる魔女、魔界の住人である少女メイド、そして百塔街一の遊び人アレシュを合わせて―あれっ5人?と思いながら読んでいたら最後に題名の「六」がようやく分かって。…楽しいなぁ。 使徒メンバーも濃ゆい濃ゆい。中でも、葬儀屋の首領にして大の人形好きなルドヴィークが好きー。挿絵見ると渋めのダンディなおじさまで、それでいつも人形を片手に持っているとか。ギャップが凄いなと想像する。
栗原さんはいくつかシリーズ読んでて、中でもデビュー作の「オペラ」シリーズが突き抜けて大好きで。あの退廃的な雰囲気の中キャラが生き生きしている感じがたまらなく好きだったので、今回懐かしい空気を感じてとてもニヤニヤした。うーん、これ一冊でも綺麗な終わり方だけど、続きを期待しちゃうな…!
「……アレシュ、貴様、まさか……」
呆気にとられた顔でミランがつぶやく。
最高に機嫌がよかったアレシュは、彼に片眼をつむって見せた。「そうだよ。再結成しようじゃないか。『深淵の使徒』を。さいわいここには、百塔街最高の人材がそろってる。この素敵な街を、なすすべもなく浄化させるなんて僕はごめんだ」
(P.132より)
『なりそこない』高里椎奈 [少女小説]
気晴らしに山のコテージで一人過ごすことにした彼に待ち受けていたのは、4人の男たちと…赤ん坊?! 何故彼らは鉢合わせしてしまったのか。この中に赤ん坊の誘拐犯がいるのか。一夜限りの夏休みが始まる。
「薬屋探偵」シリーズでおなじみの著者の新作。大人のほろ苦青春ものだった。 赤ん坊の誘拐犯は誰か?ということでミステリの面も見せつつメインは人間関係。初対面の男たち(と赤ん坊)という突拍子も無い状態だから最初から折り合いは悪いわけで、衝突が起きたり疑念を抱かせたり。それでも次第に妙な一体感も出来上がりかけたり…。名前も素性も分からない男たちが腹を探り合いながらもしぶしぶ家事をこなしていく場面は少しにやりとした。
十代やかつての十代が読むようなライトノベルって印象で少女小説の枠ではない気がする。かといって他のレーベルでも読めないような一作。この新レーベルは2冊目だけど、こういった路線の本もいろいろ読んでみたいなぁ。心の底に仕舞っていた嫌な感情が噴き出すくだりとか「あるある」な気持ちにさせられた。心の機微を丁寧に描く著者らしいなあと思いつつ。
「世界中に騙されていた思いがしました。裏切られたとさえ思いました」
「大袈裟だな、おい」
「幼稚でしょう?」
サンゴ自身、自分でも笑ってしまう。「母は僕だけの為に生きているのではなかった。 父は会社に行って帰って来るまで、消えているのではなかった。パン屋さんのおばさんも、学校の先生も、店や学校の他に帰る場所があった。それがショックでした」
『相棒とわたし』瑞山いつき [少女小説]
核獣<ヴィーダ>を狩る滅核獣師<クラフト>になるために、十五歳のエッドは相棒の少年ラッセと共に準軍学校に入学した。今までもこれからも、ずっと二人は相棒のままだと思っていたけれど…? 「くるか?相棒」 反乱者の策略でかけがえのない相棒と敵対することになったエッドは――。
幼馴染みで相棒もの。直球で好きだった。旧貴族のエッドは身長が高く見た目もやや男性的。対して幼い頃から相棒とも言えるラッセは一見少女とも見紛うほどの可愛らしい少年。十五歳になった今では自分の見た目を少し気にし始め…。微妙な距離感にもぞもぞした。たまらん。 「恋愛未満」だけど、この二人の掛け合いはいちいちニヤリとさせられる。甘い意味でも息の合ったコンビぶりにも。 エッドと同室の可憐な美少女マリアやラッセの兄貴もいい具合に二人と絡んでいて軍隊系学校でのアレコレ、楽しかったです。
核獣を狩る時の描写・バトル面はかっこ良い…。少女小説系でバトルものって新鮮だ…よね? ほのかに甘さも漂わせてニヤニヤ要素も忘れずに。 あと、「もしや」と思っていた二人が、本編終了後の小話で絡んでいて嬉しかったなぁ。まぁ少しビター風。それでも、こちらはこちらで大変おいしくて好きー。
どうやらこの一冊で終わりみたいだけど、続き出ないかなぁ。。出てほしい!
背中を押してくださったfallcloverさん、ありがとうございました!(fallcloverさんの感想はこちら)