『桜行道』佐島ユウヤ [少女小説]
人や妖との触れ合い、別れ。そして続いてく根なしの道行き。 時が止まった者と故郷に戻れなくなってしまった迷子の妖、現世から半端な存在の彼らはそれぞれの想いを抱えながら天狗・周平の故郷を目指す。
著者は葉月あきさんより教えてもらいました。あたたかさや切なさが滲み出る一冊。淡々と進んでいる。それでも時折きらめく何か…思いの欠片やよぎる郷愁の記憶、感情や相対する者たちの掛け合い…にじんわり心揺れて、いつの間にかこの雰囲気にのみこまれる。
妖の姿を見ることができ、その姿を描けば紙に封じることのできる筆を持つ藤也。かたや呪により故郷の山へ足を踏み入れられないでいる天狗・周平。周平に気に入られたことで共に旅することになった藤也。 仲が良いのか悪いのか、けれど互いを興味深く思っているのはうかがえて。この関係をどう呼ぶのか分からないけれど、見ていて気の休まるような笑いが込み上げてくるような二人だった。
台詞廻しとか言葉の置き方がさりげなくピタっとはまる感じ。派手な展開はないけど、それでいいよ。すっげぇ好き。
「ここを出て、また彷徨うようになって、だ」不意に一真が呟くように言い、藤也は少し驚いて口を噤んだ。
「いつか、どこにいてもいい、一瞬でもここに戻りたいと思ったなら、いつでも帰っておいで」
「…………」
「たとえばそこが赤の他人の家でも、誰かが待っていて、お前が戻りたいと思うなら、そういうのを家というんだよ」
(p.52より)
※2012/1現在絶版(涙)。アマゾンのマーケットプレイスにて在庫確認。
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