『黒猫の刹那あるいは卒論指導』森晶麿 [読書]
”もう少しだけ歩いて帰ろうか、モントレゾール君” 卒業を来年に控え卒論と進路に悩む「私」。ある日「私」は、唐草教授のゼミに見知らぬ青年を見つけて…。黒猫と付き人の出会いを描くシリーズ短編集。
読みたかった二人の出会い編がすぐ現実になり、嬉しさの余り小躍りした。
シリーズ第1作目『黒猫の遊歩あるいは美学講義』の3年前。出会いの話から二人が遭遇する事件や謎を、移ろう季節を感じながら、楽しく読みました。 出会ってから一年後には黒猫としばし離れ離れになってしまうのが分かっているからこそ、季節の移り変わりに少し敏感になってしまったのかもしれない。そして、二人の関係が少しずつ変化しているような気がして、…きゅんきゅんした! 本編を読む前の序章として読み始めても大丈夫な一冊。今までのを読んでいる人には、より面白く読める一冊。だね!
美学の辺りでは、1巻より入り込み易かったものの全てをきちんと理解できているかまだ自信が持て、て、ない。。でも、殺人などの物騒な事件が絡むものよりも、日常のなかで人の心をより深く見るように論じられる美学の方が、心地よく読めたと思う。
それにしても黒猫と付き人の距離感は、学生編でも絶妙でわしづかみにされた。本編の続編もすっごく楽しみです。
以下、有り余った衝動を吐き出す感想。長いので畳みます。
第一話「数奇のフモール」
黒猫と付き人が初めて本格的に関わった話。「黒猫クン」呼びが少し距離を取っていて、3巻まで読んでいるこちらとしてはなんだかむずがゆい。でもまさか、エピローグでこの一話の見方が変わるなんてね!思わずにんまりしてしまった。
第二話「水と船の戯れ」
一番好きな話。付き人が作った話が、黒猫によって紐解かれ2つの解釈へと導かれていく過程に驚かされた。今さらながら、自分ってリドル・ストーリー(結末を曖昧に示して、読者に委ねるような締めくくり)が好きなんだなー。振り返れば黒猫シリーズでは、リドル・ストーリーのような話が多いような気がする。人の心情は推理しきれないところもあるのだと考えさせられる。
そして黒猫と付き人の駆け引きのような論議にニヤリニヤリ。テクストの内側については黒猫の論理にただただ感嘆していたけれど、外側の話となると少し予測が外れていたのがおかしくて、笑ってしまった。黒猫の嫉妬を表した話なのではと考えると…黒猫も大人気ない(笑)
第三話「複製は赤く色づく」
一羽の鶏”シュイロヤケイ”を巡って広がる恋の話は、美学を扱う本シリーズらしいミステリではないかなと。お気に入り。
第四話「追憶と追尾」
サスペンスとスリルを味わえる本作はシリーズ2巻を思い出した。
1巻ではほぼ習慣化しているような黒猫宅の訪問とご飯のお相伴にあずかる図が、ここではちょっと新鮮に映った。さらりと近づく黒猫の行動には、そりゃあ動揺しちゃいますよって。
第五話「象られた心臓」
ちょっと意識している異性の前で堂々とバスローブ姿で出てくる付き人ちゃんにたまげた。 きっと無自覚なんだろうなぁ…。付き人って、黒猫のことを意識しているのに、変なところで鈍感さが表れているいるというか時折そんなギャップを感じる。そして、書かれていないけれど内心そんな彼女に翻弄されているのでは、と黒猫を勘ぐってしまってる(笑)
第六話「最後の一壜」
感想の最初に挙げた黒猫の台詞について…本意を詳しく聞きたいところです!!うーん、でも、核心に触れずに匂わせたままで終わるというのは、とても私好みというか余韻が残っていて素敵。またしても黒猫にしてやられているような…。
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