『水の時計』初野晴 [読書]
暴走族から抜け出そうとする少年・昴はある夜、見知らぬ初老の男によって廃墟の病院へ導かれる。そこには、異様な風貌の少女が横たわっていた。月明かりの晩だけ話すことが出来る少女・葉月から思いもよらぬ頼みごとを任されることになる。
改めてタイトルを見返すとなんとも言えない感情に占められる。
幻想的な世界と過酷な現実が同時に存在する、まるで寓話のようなオムニバス。特殊な環境下で存在している少女・葉月の願いによって、彼女の身体の一部一部をレシピエントたちに届けることを任されてしまった昴。彼視点は最初と最後の話のみだけど、彼の必死さや悲痛な雰囲気が伝わってくる。
この二人の物語かと思ったら、レシピエント要素が大きく占められていて呑まれます。切なくて、苦しむほどの、静かな優しさ。世界の残酷さを見てもなお、この物語の透明感は褪せなくて。好きだなぁ。
あと初野さんの作品って人間関係が好きだなぁとしみじみ思いました。その人の背景や人との距離感が中々割り切れなく、時々息をするのが辛くなるほどに。
「あたえるじゆうと、あたえないじゆう――、それはわたしがまもる。だから、もらうじゆうと、もらわないじゆう――、それは、あくたたちでな、だめだ。――すばる。わたしと、どうねんだいの、おまえのめで、たしかめて――、わたしに、きかせてほしい」
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